転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


11 お母さんとライトの魔法



「ルディーン、何時まで寝ているのかな? お寝坊さんねぇ。もうお外は明るく……って、どうしたの! これは何事!?」

 自分のステータスを確認している間に結構な時間が経っていたみたいで、何時まで経っても起きてこない僕を心配したお母さんが部屋に起こしに来てくれた。
 でも来てくれたのはいいんだけど、なぜかびっくりした顔で固まって僕の方を指差しているんだよね。

 そんなお母さんの姿を見て、僕はどうしたんだろうと小首をかしげる。
 だって僕自身は特に何か特殊な事が起こっているとは感じてなかったもん。

 これが朝起きたら大人になっていたとか、女の子になっていたと言うのなら僕だって驚くよ。
 でも僕は昨日までと同じ体のままで、別に急成長も性転換もしていない自覚があるからお母さんが何に驚いているのかさっぱり解らないんだ。

 ん、待って? もしかして顔が変わってるとか? もし動物の顔とかになっていたらお母さんがびっくりしてもおかしくないよね? そう思った僕は慌ててぺたぺたと自分の顔を触ってみたんだけど、でも触った感じ特に変わったようには思えないんだよなぁ。
 別に動物のような毛も犬や猫のような髭も生えてないし、狼のように口が伸びていたりもしてない。

 鏡を見てみないとはっきりとは言えないけど、触った感じではいつもの僕の顔のままだし、特に変な所はないと思うんだけどなぁ。

「ねぇおかあさん、どうしたの? ぼく、どこかへん?」

 そこまで口にして僕はある考えに行き着いた。
 お母さんがここまで驚いているんだから、自分では解らないだけで傍から見れば誰にだって解るくらい大変なことになってるんじゃないだろうか? 例えば顔に紫色の斑点が出てるとか、そこまで行かなかったとしても顔が真っ青になっていたらお母さんなら心配してこれくらい驚いてもおかしくない。

「もしかしてぼく、たいへんなことになってるの? しんじゃうようなびょうき?」

 急に怖くなって、僕は涙目になりながらお母さんにそう問い掛けた。
 でもそんな僕の泣きそうな表情を見てお母さんはフリーズから回復したらしくて、慌ててそれを否定してくれた。

「そうじゃないのよ。お母さん、ちょっとびっくりして。ねぇルディーン、それもあなたの魔法なの?」

 そう言うと、お母さんは恐る恐る僕の方を指差した。

 ん? 魔法って何かやってたっけ? そう考えて、僕はある事に気が付いた。
 そうだ! 僕の指、今物凄く光ってるんだっけ。

 自分でかけた魔法の効果だからと指先が光っていてもその事にまるで違和感が無かった僕は、お母さんから見たら今がどれほど異常な状況だと感じるかを考えつかなかったんだ。
 でも確かに朝寝坊した自分の子供を起こしに行ったら、その子の指が太陽に負けないくらい光り輝いてたら誰でも驚くよね。

「うん、らいとってまほうだよ。でもきのうまではこんなにあかるくできなかったから、ぼくもびっくりしてたんだ」

「そうなの。それで中々起きてこなかったのね」

 今の状況が特に特別な事ではなく自分の息子が自分の意思で指先を光らせているのだと解って、お母さんはほっとした顔をしていた。
 そんな顔を見て、僕は何か悪い事をしたような気持ちになったので、

「おかあさん、ごめんなさい。びっくりさせちゃったね」

 そう謝った。

「大丈夫よ。ルディーンが魔法を使えるってことをお母さん知っていたはずなのに、それに思い至らなかったのが悪いんだから。でもそのらいとって言う魔法、指先が光るだけならちょっと使いづらそうだけど、どんな時に使うの?」

「ちがうよ! らいとはものをひからせるまほうだよ。ぼくはあさおきてすぐの、まりょくがいっぱいのときは10かいくらいらいとがつかえるから、りょうほうのてのゆびをひからせてれんしゅうしてたんだよ」

 昨日までの僕の最大MPは35だったから、消費魔力が3のライトだと11回使う事ができた。
 だから毎朝、それに近い数があるからと両手の指を全部光らせて練習してたんだ。
 
「そうなの。なら他の物を光らせるのもできるのかな? 例えば石とか」

「うん。このまほうってほんとうはぼうけんするときに、まほうのつえのさきをひからせたりして、たいまつのかわりにするまほうだからね。いしとか、ぼうのさきっぽとかをひからせることができるよ」

 体の一部しか光らせる事が出来なかったら、この魔法は本当に役に立たない魔法になっちゃうもん。
 例えば暗闇で自分の手とかが光ってたら魔物から見たらいい目印になって、ライトの光が届かない暗闇からでもそこを目掛けて魔法とか弓とかで攻撃される可能性があるからね。

「便利な魔法なのね、らいとって。それなら今度夜に繕い物をする時、ルディーンにその魔法をかけてもらおうかしら。ろうそくや暖炉の火では手元がちょっと暗いなって思っていたけどその光なら明るさ的に十分だし、物にかけられるのならそれを手元に持って来ればいいのだから助かるわ」

「うん! そのときはいってね。あっでも……」

 そこまで言ったところで、僕はある事に気が付いてちょっと口ごもる。

「どうしたの? らいとの魔法を使うのに、何か問題があるのかな? もしかして光っている時間が物凄く短いとか」

「ううん、じかんはだいじょうぶだよ。ふつうにかけても1じかんはひかってるし、かけるときにいっぱいまりょくをつかえば10じかんくらいまでひかってる」

 実は物体にかける持続型魔法は、消費魔力を増やす事によって効果の時間を延ばすことができるんだ。
 ライトはその恩恵を特に感じることができる魔法の一つで、ドラゴン&マジックオンラインではダンジョンに入る時に最大までかけておき、MPを回復してから潜ればMP消費を考えずに使えたんだよね。

「あら、それなら何も問題はないじゃないの。ならどうして困ったような顔をしたの? お母さんに教えてくれる?」

「あのねぇ、このまほうのひかりはいちどつけたらぼくしかけせないんだ。でもぼく、おかあさんのおしごとがおわるまでおきてれないから、ながくひからせるとおしごとおわってもまぶしくておかあさん、ねられなくなっちゃうなぁっておもったの」

 マジックアイテムと違って、ライトの魔法は術者が解除するか他の魔法使いが解呪しない限り消える事はない。
 そして解呪もかけた人の実力次第で解くのが難しくなるんだよね。
 まぁ、その辺りはかける人の裁量次第で解きやすくもできるんだけど、そもそも魔法が使えないお母さんではいくら簡単に解けるようにしておいたとしても自分でライトの魔法を消す事はできないんだ。

 僕の家はお父さんお母さんが村の中でも結構な実力を持っている戦士であり狩人だから他の家よりほんのちょっと裕福で家も別に狭くはないんだけど、それでも繕い物をする部屋とお母さんたちが寝る部屋を別けるなんて事ができるほど大きな家ではないから、こんな強い光を放つ物が部屋の中にあったりしたら、普段は真っ暗にして寝ているお母さんたちは絶対に眠れないと思うんだよね。

「ルディーンは優しいのね。でも大丈夫よ。お母さんにいい考えがあるから」

「いいかんがえ?」

 そう言うと、お母さんは一度部屋の外へ出て行き、しばらくすると何やら後ろに物を隠しながら帰って来た。
 そしてそれを見えない位置に置いた後、ジャガイモを一個、僕に渡してこう言ったんだ。

「ルディーン、丁度いいものが無かったからこんな物で悪いけど、このジャガイモにさっきのらいとって魔法をかけてくれるかな?」

「おいもさんにらいとかけるの? うん、いいけど……」

 よく解らないけど、何かお母さんには考えがあるみたいだから、とりあえず言われた通り魔法をかけてみる。

「らいと」

 するとジャガイモが強烈な光を放ちだした。
 食べ物にライトの魔法をかけたのは初めてだけど、ちゃんと発動したみたいでよかった。

「おかあさん、かけたよ。これをどうするの?」

 このライトの魔法はたとえ毛布とかをかけたとしてもかなりの枚数をかけないと光は漏れるし、箱とかに入れても蓋とかの隙間からかなり強い光が漏れるから暗闇の中ではやはり眩しいと思うんだよね。
 なら家の中を暗くする為にこれを外に出してしまえばいいかと言うと、これだけの光だと真っ暗な村の中ではとても目立つもん、それを見た近所の人が何事だろうと思ってしまうんじゃないかな。

 僕としては無理だと思うんだけど、きっとお母さんはこのジャガイモの光をうまく消す方法を思いついたんだ。
 でもお母さんは解呪なんてできないんだから、どうやって消すのかまったく解らない僕は、どきどきしながらお母さんが何をするのかを見ていた。
 すると。

「これだけ明るいと、布をかけても眩しいよね? でもこれならどうかしら」

 そう言うとお母さんはさっき後ろに隠していたものを、折りたたまれた毛布と鉄のなべを僕の前に置いた。
 そして、光るジャガイモを毛布の中に入れて、その上から鉄のなべをかぶせたんだ。

「ひかりがどこからもみえない。おかあさん、すごい!」

「でしょ」

 ものの見事にライトの光を外に洩らさないようにする方法を僕に見せ付けて、得意満面のお母さん。
 なるほど、ひとつの物で遮るんじゃなくて、なべを毛布にかぶせる事によって光が漏れないようにしたのか。

 確かに鉄なべなら光を通さないし、折りたたんだ柔らかい毛布の中にジャガイモを入れて、そしてその上に鉄なべをかぶせると重さで沈み込むから、ジャガイモから鉄なべまでの間にも毛布が入り込んで光が漏れる事はないよね。

「でもね、こんなのを使わなくても光るものを隠す道具はあるのよ」

 感心しきりの僕に、お母さんは遺跡とか洞窟で使うランタンの中にはカバーを下ろす事によって中の光を外に漏れなくできる物もあることを教えてくれた。

「普通は中にろうそくとかを入れるんだけど、ルディーンのこの魔法があればそんなのもいらないから今度買ってこようかしら」

 そう言って笑いながらね。


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